味噌煮込みうどん編と書いたが、名古屋では単に「味噌煮込み」で十分通用する。名古屋の代表的な食べ物であると同時に、他地域の人間から見ると、超凶悪食品の代表格である。凶悪な事例を述べるとこうである。
凶悪の1:赤味噌で煮込んであって見た目気持ち悪い。とっても塩辛そう。
味噌煮込みの汁は、赤味噌をカツオを中心にした出汁で溶いたものである。これに、塩や砂糖、店秘伝の出汁なんかを加えて加熱したものである。当然、赤味噌なので、赤い。白味噌文化圏の人にとっては、これだけで、凶悪な食品となるであろう。ちなみに、味噌は八丁味噌をベースに使うが、山本屋本店では白味噌も少量混ぜるそうである。このバリエーションにより、八丁味噌系の渋みを持ったばりばりの味噌煮込みから、甘味を持った味噌煮込みまで、店による味の違いが発生するのである。
凶悪の2:麺が煮えてない!こんな生煮えの麺なんか食ったら腹をこわすぞ!
味噌煮込みの麺は、味噌煮込み専用の半生麺である。讃岐うどんに代表される一般のうどんは、うどんを練る際、小麦の粘りを出すために塩水を使う。その塩分は、うどんを茹でる際、湯に溶けだすため、うどんは塩辛くはない。それに対して、味噌煮込み用のうどんは、練る際、水だけで練る。したがって、讃岐うどんのような腰は出ない。これを煮込み汁の中に半生状態で投入する。讃岐うどんを同様に使うと、うどんの塩味が煮汁に溶けだし、塩辛くて食えないことになる。
うどんの性質が根本的に違うため、味噌煮込み用のうどんは煮ても柔らかくならない。柔らかくなくても火は通っている。東京の人が、土産に味噌煮込みを買って帰り、作ったのだが、いつまで煮ても柔らかくならず、とうとう煮とけてしまったという逸話があるくらいである。味噌煮込みの麺が硬いのはデフォルトである。そういう意味では、味噌煮込みは一般のうどんとは別物と言える。
味噌煮込みは、通常、土鍋で供される。もちろん、中はぐつぐつ煮えたぎっている。逆に煮えたぎっていなければ、できてからカウンターに放置されていた証拠なので、店員をじろっと見てやってかまわない。山本屋本店などの土鍋は針金で補強されている。こうしておいても、強い加熱で、いかな土鍋でも1年くらいしかもたないそうである。この土鍋を加熱する際、ふたはしない。そのため、土鍋のふたに空気穴は必要でないため、穴はあけていない。そのため(か、逆かは知らないが)味噌煮込みを食すとき、このふたを取り皿として使用する。別に恥ずかしいことはない。みんなやっている。
また、他地域の人にあきれられるのだが、味噌煮込みのお供はごはんである。味噌煮込みを頼むと、「ご飯はいかがですか?」と聞かれる。味噌煮込みのしっかりとした味のおかげでご飯もすすむのである。炭水化物食うのに炭水化物をおかずにするなんて、と言う人もいるが、んじゃぁ、ラーメンライスってなによ?名古屋では、麺類をおかずにご飯を食べることには抵抗がなく、きしめん定食とか、ざるそば定食、焼きソバ定食なんてのも存在する。味噌煮込み定食なんか、正統も正統、王家を伝承できるくらいである。
味噌煮込みで有名なのは、「山本屋本店」「山本屋総本家」が2大巨頭である。
「山本屋本店」は、これが屋号であるので、山本屋本店中日ビル店のようなわけのわからない表現となる。本当の本店は中村区大門にある。ここでは、ちょっと高級感漂う雰囲気で味噌煮込みをいただくことができる。注文すると、自家製の漬物が出てくる。これは無料なので、心配することはない。また、お代わり自由なのでなくなったらお願いすれば持って来てくれる。ここの味噌煮込みは基本的にはオーソドックスで、具としては、ネギ、油揚げ、卵、カマボコ、そして、汁の底にかしわのかけらが沈んでいる。贅沢をしたい人は、名古屋コーチンとかのバージョンが存在する。また、いっぱい食べたい人のために、1半という、通常の1.5倍の量の味噌煮込みも存在する。
「山本屋総本家」は、「山本屋本店」と非常に紛らわしい。大昔にはわずか接点があったらしいが、基本的に「総本家」と「本店」間につながりはないそうである。「山本屋総本家」はアットホームな感じがあるんですが、ごめんなさい、あたしの立ち寄り先は「本店」しかないので、あんまり行けません。ここではむちゃくちゃ太い箸が用いられていたのだが、保健所の指導で今は割り箸になってしまったそうで。でも、こっそり頼むと出してくれるそうです。
あと、有名な店と言えば、昭和区壇渓通にある「まことや」ここは知る人ぞ知るという店。平日はまだいいが、休日となると、店の外まで客が並び超混雑。相席はあたりまえの店です。つゆにしっかりとコクがあって、打ち立ての麺とあいまって、あたしは好きです。ただ、混雑しますので、ゆっくりと後味を堪能したい方には不向き。お値段は結構リーズナブルです。緑区にも支店があります。
この3系統以外にも、名古屋で麺類を出す店なら、たいてい味噌煮込みは食べられます。店によって麺が太かったり細かったり固かったり柔らかかったり、汁も八丁味噌の味でまくりの店、甘い店、辛い店、それぞれの店が目指す理想が違い、どこが一番おいしいかは百人百様です。あたしの前の前の職場の近くのうどん屋の味噌煮込みは、豆味噌をすりつぶす前の、豆が残った状態の味噌が使われ、こだわりを感じました。チェーン店の「サガミ」などでも当然のように食べられます。以前のサガミは、ありきたりの味だったんですが、ここんとこ、改良が加えられ、結構いける味になってきました。うれしいことです。
ご家庭で味噌煮込みを楽しむ時は、おとっときの場合は、山本屋本店の冷凍味噌煮込みを利用する。そうでない場合はスーパーなどで地場の麺類屋の半生めん、さらにお手軽に済ます場合は、スガキヤの袋味噌煮込みうどんを食します。
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